柔術を始めてから、体のあちこちが変わった。
中でもいちばん予想外だったのは──指。
日々の練習で腫れて太くなり、ついに結婚指輪が入らなくなった。
でも不思議とショックではなく、「ああ、これが戦う手か」と思えた。
グリップと腫れのサイクル
柔術では、相手の道着をつかむことを“グリップ”という。
襟・袖・パンツ・裾──とにかく掴んで離しての繰り返し。
そして、掴めば当然、相手はそれを切ってくる。
「バチンッ」とグリップを外されるたび、指関節がミシッと鳴る。腫れて痛い。けれど、次の日には落ち着く。
……そして、また練習で腫れる。
気づいたときには、それが成長のサイクルになっていた。
先生の手を見て納得する
「先生、結婚指輪入らなくなりました」
そう報告したら、なぜかとても嬉しそうに笑われた。
先生の手を見ると、親指から小指まで、全指の関節がゴツゴツ。
ピンポン球でも入ってるんじゃないかと思うほど。
「極めるって、こういうことか…」と一瞬ひるむけど、どこか誇らしくもあった。
テーピングの儀式
スパーリングで壊れると思われがちだけど、実際はドリル練習の時点で痛い。
だから練習前は、全指にテーピングをぐるぐる巻く。
守るためというより、もはや“儀式”。
巻いているだけで「強そう」に見えてしまうから、ちょっと恥ずかしい。
「試合近いんですか?」って聞かれそうなほどの仕上がり。
(予定は、ない。)
指輪もネイルも、まあいいか
女性柔術家はやっぱり指輪をしないらしい。
マニキュアしてる人もいるけれど、私はもう「いいや」の側。
アクセサリーもネイルもメイクも、正直めんどくさい。
指輪が入らなくなったことで、
“やらなくてもいい理由”が正式に手に入った。
「もう女子をサボってもいいんだ」と思ったときの安堵感といったら、
結婚が決まって「もう合コン行かなくていいんだ」と思ったときに似ていた。
“恋愛しなきゃいけない”螺旋から抜け出したときの、あの開放感。
柔術を始めて、指は太くなったけど、心は軽くなった。
飾りは減ったけど、実感は増えた。
この指でつかむのは、もう相手の道着だけじゃない。
「無理しないで生きてく私」という、ちょっと笑えて、たまに誇らしい自分だった。

